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NEDO技術開発機構、次世代大型リチウム電池用電極中の1次元トンネル視覚化

ニュースリリース|NEDO技術開発機構 次世代大型リチウム電池|

1次元トンネル視覚化
図2.視覚化されたLixFeP04中の1次元リチウム拡散経路。緑色の部分がリチウムの分布に相当する。
 電池の中のイオンの動き、見えた――。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 東京工業大学が次世代大型リチウム電池用電極中の1次元トンネルを視覚化。

<新規発表事項>
 東京工業大学の准教授、山田 淳夫氏らは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の産業技術研究助成事業(予算規模:約50億円)の一環として、リチウムを適当量含むリン酸鉄を真空中で高温に熱することでリチウムが活発に動き回る状態を安定に作り出したうえで中性子線を照射し、物質と中性子が相互作用することで現れる信号を情報理論に基づいて解析することで、リチウムイオンがリン酸鉄の結晶中に存在する特定の一次元トンネルの中を動き回っている様子を捉えることに成功しました。

 現在のリチウムイオン電池に採用されている電極中ではリチウムイオンは2次元、または3次元方向にイオンが動くとされているのとは対照的であり、オリビン型リン酸鉄(LiFePO4)の結晶中では、この限定された方向のイオンの動きが性能を高める上での重要な役割を果たしている可能性が示されました。
また本成果はリン酸鉄に限らず、電池の電極中のイオンの動きを視覚化した初めての例でもあり、今後の様々な材料開発に役立つものと期待されます。本研究成果は8月11日(日本時間)付の英国の科学雑誌ネイチャーマテリアルズ(注1)(電子版)に掲載されます。
 注1:Nature Materialsは、材料科学全般を対象とする世界最高の学術雑誌である。世界中から膨大な数の最先端の研究成果が投稿されるが、採択されるのは年間わずか100件程度である。このうち、リチウム電池分野の論文は毎年0-2件で推移している。

1.背景
 リチウムイオン電池は、最高のエネルギー密度を達成できることから、携帯電話やノートパソコンなどの携帯電子機器に広く採用されている。環境問題解決の緊急性、石油価格高騰などを背景に、携帯電子機器に広く用いられているリチウムイオン電池を、電気自動車等の大型用途に使用する為の研究開発が活発化している。しかし、プラス極側に使用される材料には、希少金属であるコバルトが大量に含まれており、非常に高価であるばかりでなく、助燃性も強いため、たびたび発火事故などを引き起こしている等、安全性やコスト面でのおおきな問題を抱えており、本格的な実用化は社会の強い期待に反し遅れている。このように、現在のリチウムイオン電池はコストや安全性の面で大きな課題を抱えている。このため、電気自動車などの大型用途での実用化は、社会的な強い要請があるにもかかわらず、遅れているのが現状である。

 これらの問題を解決可能な電極材料として、ありふれた元素である鉄を利用することができ、助燃性も皆無なオリビン型リン酸鉄(LiFePO4)が世界的に注目されており、次世代大型リチウムイオン電池を実現するための最有力技術と目されている。しかし、非常に電子を通しにくいリン酸鉄は、つい最近まで専門家の間でも実用電極としては機能しないと言われてきた。これに対し山田准教授らは、注意深く合成することで従来材料を上回る性能を実現可能なことを示してきた。その優れた特性は世界的に注目されており、今や次世代大型リチウムイオン電池を実現するための最有力技術と目されている。例えば、北京オリンピックの会場を走る電動バスを駆動するリチウムイオン電池にも採用されている。ただ依然として、元来絶縁体であるリン酸鉄が、高い電極機能を発現する仕組みはわかっておらず、機構解明に向けた研究が活発化していた。

2.研究成果概要及び本成果の意義
 東京工業大学総合理工学研究科の山田淳夫准教授・八島正知准教授らの共同研究グループは、次世代大型リチウムイオン電池への採用が確実視されている、安価で安全な電極材料であるリン酸鉄中のイオンの動きを視覚化することに成功した。11日(日本時間)付けの英国の科学雑誌ネイチャーマテリアルズ(電子版)に掲載される。本成果は、電池の電極中のイオンの動きを視覚化した初めての例でもあり、今後の様々な材料開発に役立つものと期待される。

 今回山田准教授らは、リチウムを適当量含むリン酸鉄を真空中で高温に熱する条件を最適化し、リチウムのみが活発に動き回る状態を安定に作り出したうえで、中性子線を照射した。物質と中性子が相互作用することで現れる信号を、最大エントロピー法と呼ばれる情報理論に基づき解析することで、リチウムイオンが、リン酸鉄の結晶中に存在する特定の一次元トンネルの中を動き回っている様子を捉えることに成功した。現在のリチウムイオン電池に採用されている電極中では2次元、または3次元方向にイオンが動くとされているのとは対照的であり、限定された方向のイオンの動きが性能を高める上での重要な役割を果たしている可能性が示された。なお、本研究における中性子を用いた実験は、日本原子力研究開発機構・東海研究開発センターの研究用原子炉JRR-3M に設置されている東北大学・金属材料研究所の中性子回折装置(HERMES、装置責任者:大山研司准教授)において行われた。

【用語説明】
用語1:リチウムイオン電池
1990年にソニーによって商品化された、充電によって繰り返し使用可能な新型電池。発生電圧が3.6V以上と高く、飛びぬけて高いエネルギー密度を有する。現在、ほとんどの携帯電子機器に採用されている。
用語2:オリビン型リン酸鉄
組成式LiFePO4。オリビンは地殻中の主要成分であるMg2SiO4の鉱物名で、結晶構造の総称としても使われる。
用語3:中性子回折法
中性子線が結晶により回折される現象を利用して物質の構造を調べる手法。一般に用いられるX線回折法に比べ、リチウムなど軽元素や磁気的な配列に関する情報も得られることが特徴である。
用語4:最大エントロピー法
不完全な情報から完全な情報を予測構築するための手法のひとつ。まず、地下探索の手法として地球物理学の分野で提案されたが、その後、結晶学に応用され、正確な電子密度や核密度を求める方法として多大な成功を収めた。

3.発表先論文
1)発表先と発表日
Nature Materials, 2008年8月11日2:00AM(日本時間)
2)論文タイトル
Experimental Visualization of Lithium Diffusion in LixFePO4
(LixFePO4中のリチウム拡散現象の実験的視覚化)
3)著者
Shin-ichi Nishimura (西村 真一:博士課程学生), Genki Kobayashi (小林 玄器: 博士課程学生), Kenji Ohoyama (大山 研司:東北大学准教授), Ryoji Kanno (菅野 了次:教授), Masatomo Yashima(八島 正知:准教授), Atsuo Yamada(山田 淳夫:准教授) 
4)論文公開情報
http://www.nature.com/nmat/index.html  

4.問い合わせ先
 (1)技術内容について
《代表研究者名・所属機関・部署名・役職名》
山田 淳夫(東京工業大学大学院総合理工学研究科・准教授)
TEL: 045-924-5403 FAX: 045-924-5403
Email: yamada@echem.titech.ac.jp 
研究室HP:http://www.echem.titech.ac.jp/~yamada/index.html 東京工業大学 山田 淳夫 准教授

八島 正知(東京工業大学大学院総合理工学研究科・准教授)
TEL: 045-924-5630, FAX: 045-924-5630
Email:yashima@materia.titech.ac.jp  
研究室HP:http://www.materia.titech.ac.jp/~yashima/Yashima-Jpn.html 東京工業大学 八島研究室

(2)制度内容について
NEDO技術開発機構 研究開発推進部 若手研究グラントグループ
 坂橋 信俊、日高 博和、千田 和也
TEL:044-520-5174 FAX:044-520-5178
個別事業HP:http://www.nedo.go.jp/itd/teian/index.html 産業技術研究助成事業(若手研究グラント)

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