現在位置: HOME > ニュース&コラム > ビジネス・産業 > 資源・鉄鋼


NEDOなど、産業用チタン合金超塑性加工技術開発 生産性向上

産業用チタン合金
(写真・NEDO)
 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は14日、東北大学と日本発条が、産業用チタン合金の低コスト化と生産性向上を可能にする技術(超塑性加工)の開発に成功したと発表した。NEDOの若手研究グラントの一環として取り組みまれたもの。

 従来のチタン合金の成形方法は、高温・低速変形で加工するため、生産性が低く金型の寿命が短いという問題があった。α′プロセッシングと呼ばれる独自開発の加工技術で結晶粒径を適正に制御することにより、低温・高速変形において複雑形状への製品成形が容易にした。製造コストは従来の半分以下に低減、生産性は10倍以上と大幅に向上する見込み。

 今回の技術開発により、チタン合金が航空機用、自動車用、一般民生品用などへ広範に実用されることが期待されるこの成果は、9月19日に日本金属学会秋期講演大会(愛媛)で発表する。

 チタン合金は比強度が高く、耐食性に優れるために、航空機分野、化学プラントなど多様な分野に広く使用されている。中でも機械的性質のバランスが良いTi-6Al-4V合金が最も多い。しかしチタン合金には、切削加工や塑性加工が難しい、低熱伝導率による焼き付きが生じやすい、などの問題がある。これらの問題を解決する方法として超塑性現象を利用した加工があり、特に航空機分野において実用されている。更に航空機用においては、現在注目されている炭素繊維との相性の良さからチタン合金の使用率が年々高まっており、今後もその需要は増加することが予測されている。

 ところが従来のTi-6Al-4V合金の超塑性成形は、800℃以上の高温、かつ10-4s-1~10-3s-1の低速ひずみ速度下の変形条件で行われるため、生産性が低いという問題を抱えていた。更に、高温での加工のため金型の寿命が短い欠点もあった。そのため、Ti合金の超塑性現象発現の低温化と高速化が強く望まれており、それが可能となれば航空機だけでなく自動車用、化学プラント用、更には一般民生品用へ用途が拡大していく。

 そのためチタン合金の超塑性成形の低温化と高速化が強く望まれており、これを目指した研究開発は多数行われてきた。しかしながら、既存のTi-6Al-4V合金に比べて、信頼性の不足や加工コストが高い等の問題により、実用化に至っていない。そのため、既存のTi-6Al-4V合金で、従来の加工工程を使用でき、コストを抑えた新規な技術の開発が強く望まれていた。

 松本洋明助教(東北大学 金属材料研究所)は2008年に、同所の千葉晶彦教授とともに、当時世界的にほとんど注目されなかったチタン合金のα′マルテンサイトに注目した独自のTi合金の組織制御・加工技術“α′プロセッシング”を開発。2009年には、α′プロセッシングの加工条件を最適化することで、多量のひずみを要さずとも、粒径0.5μm以下の均質な超微細粒組織を形成させる技術の開発に成功した。この技術は、既存の加工技術を適用でき、更に加工コストも低減できることから、チタン合金の加工技術において新しい展開を切り拓くもの。また、本技術によりTi合金の多種多様な力学特性の高機能化が実現できることから、チタンのリサイクル技術応用に対しても貢献すると期待される。

 ▽独自加工技術“α′プロセッシング”によるTi-6Al-4V合金の結晶粒微細化
 Ti合金におけるα′マルテンサイト相は準安定相であり、針状の微細組織を示し、内部には多量の欠陥が含まれているのが特徴。この特徴を利用して、適切な熱間加工条件で加工を施すことにより、従来の(α+β)組織を加工した場合に比べて、均質な微細粒組織が得られる。この組織形成に伴い、従来に比べて高強度化、耐疲労特性など様々な特性が向上することを見出した。この技術は、様々な塑性加工(圧延加工、鍛造加工、棒材加工、線材加工)に展開可能。例えば適切な圧延加工条件で、粒径0.5μm以下の均質な超微細粒組織を有するTi-6Al-4V合金板材を製造することに成功した。

 ▽低温-高速超塑性特性の発現
 “α′プロセッシング”により圧延製造したTi-6Al-4V合金は、従来の超塑性加工条件に比べて約250℃低い650℃、従来より10~100倍速い10-2s-1の低温-高速加工条件においても、220%以上の巨大引張伸びを示す超塑性特性が発現した。従来のTi-6Al-4V合金では、同じ条件では超塑性特性を示さず、100%未満の引張り伸びしか示さない。製品成形コストは、従来のチタン合金の場合の50%に低減する可能性がある。これにより、現在はほぼ航空機用に限定されている用途が拡大し、将来は自動車用、化学プラント用、更には一般民生品用へ広範に実用されることが期待される。

 ▽波及効果
 本成果は、チタン合金の製造コスト低減に貢献するため、既に超塑性加工されている製品全般に展開可能。例えば、航空機用チタン合金部材、自動車用、化学プラント、エネルギー製造用プラント、一般民生品、スポーツ用品などに展開できます。更に本成果の超塑性加工技術は、基本的にTi-6Al-4V合金以外の他の(α+β)型合金にも展開可能であり、製造コストの低減に貢献すると期待される。

 今後は“α′プロセッシング”の適用範囲を拡大させ、産業用チタンの製造コスト低減と生産性向上による用途拡大に貢献する。また、チタンのリサイクル技術応用に対しても貢献していく。


関連記事

powered by weblio


前後の記事



記事バックナンバー

購読のご案内

取材依頼・プレスリリース

注目のニュース
最新の産業ニュース
写真ニュース

最新の写真30件を表示する