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さや侍:リアリティ演出のため役者には何も伝えず、緊迫感ある描写に

松本人志
プレミアム上映会の舞台挨拶にたった松本監督。撮影を振り返り「しんどかった」とポツリ
<映画試写感想:さや侍>

 独創的な視点で世界から好評を得ている松本人志監督作品。その第3作目となる映画「さや侍」(松竹)が11日から全国で公開された。過去2作品とも欧州の映画祭に招待を受けるなど、どちらかと言えば、海外での評判が高かったように思えるが、今回は映画の概念を壊す基本路線を維持しながらも「私に抵抗感を抱いている人も見てもらえるのではないかと思う」と少しばかりか“日本感覚”を意識したようだ。

 映画は、刀を外した落ちこぼれ侍の野見とその娘の姿を描いた物語。脱藩の罪で捕らわれた野見は、1日1芸を披露して若君を30日の間で笑わすことが出来たら、死罪(切腹)から免れる「30日の業」を課せられる。いつも逃げてばかりの野見に「武士らしく自害してください」と言い寄る娘との関係は冷え切ったもだったが、30日間の業を行っていく課程で、2人の関係は深まり、そして野見は、武士としての誇りを取り戻していく。

 今作では天然キャラが光る素人役者の野見隆明さんを主役に起用した。コントの要素を織り交ぜながらも複雑に絡み合ったヒューマンドラマとも言える内容で、松本監督が公言した、自身に子供が出来て考えが変わったという“子供や家族に対する思い”と“同世代に対する応援”をはじめ、多くのメッセージが詰め込まれているように感じる。見る人の環境や世代によって捉え方が様々ではないかと思う。

 特筆すべき点は、リアリティの追求にあったと思う。死へと近づく恐怖を演出するため、撮影中、野見さんには映画であることを伝えず、さらには台本を渡さず、共演者とも会話をさせないほどの徹底ぶり。その孤独感が役に活かされて野見さんの表情や演技にはリアリティがあった。

 また、撮影は時系列(シーン通り)に進められ、さらに町人や町並みは素朴に描かれていたこともあり、映画をドキュメンタリーのような感覚で見ることが出来た。若君を笑わすための芸づくりは、コントの要素が強かったが、その内容もどこか現代のお笑い事情を描写しているようにも思えた。

 単調に思える部分もあるが、彼の独創的な世界観は細部に渡り行き届いているように思える。笑いもありながらも、クライマックスでしっかりと泣かせてくれるなど、それぞれの人生に照らし合わせてみてみるのも良いかもしれない。ちなみに松本監督が薦めるシーンは最後の川原のシーン。映画では野見が書いた「時節の句」の原文は松本監督が書いた。

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