村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」127 -日本産業革命の地・横須賀造船所―
小栗まつり 5月25日
今年の小栗まつりは5月24日に予定している。メインの講演をお願いした拓殖大学関良基教授は昨年『江戸の憲法構想』(2024作品社)を刊行している。内容は幕末に6人の人物が新しい政治体制の基本としての新憲法草案をそれぞれ提案していた、その内容を概説分析したもの。
幕末に小栗上野介はワシントン海軍造船所の見学で、日本も総合工場としての造船所を建設すれば近代化のスタートを切れると確信し、帰国後に横須賀造船所の建設を提議し、建設にこぎつけている。実はその建設案に幕臣からの反対論が渦巻いた。ある幕臣の「幕府の運命もなかなか難しい。せっかく造船所を造っても出来上がる頃には幕府はどうなっているかわからない」という言葉に、小栗は座り直して「幕府の運命に限りがあっても、日本の運命に限りはない。いずれ土蔵付きの売据えになればいい。いいものを残してくれた、と幕府の名誉になる」と語っている。「売据え」とは今の居抜き物件のこと。同じ売家でも門や塀があれば価値が高い、横須賀造船所という土蔵をつけてやれば、いずれ新しい家主(政府)の役に立つ、という江戸っ子のシャレであろう。幕府のためだけに造るのではない、幕府の次の新しい政府の役に立てばいい、と先を見据えた言葉である。
このとき小栗の脳裏に思い浮かんでいた新しい政体は、少なくとも1868明治元年以来神格化した天皇制を表看板にして1945昭和20年まで77年間、「鬼畜米英」と攘夷運動のスローガンを叫び戦争続きの日本に仕立てた明治政府のような政体ではなく、もっと国民が希望に満ちた、明るい展望の持てる政体ではなかったろうか。記録史料には見つかっていないが、小栗は勘定奉行の立場で6人の新しい憲法草案のいくつかに目を通していたのではないかと推測して、まずその6人が提議する憲法案について語ってもらおうと講演をお願いした。
ほかに観世流能楽師清水義也氏の新作能「小栗」の仕舞も昨年に続いて演じられる。NHK大河ドラマ化が発表されどれほどの人出になるか予想がつかないが、記念の投げ餅でたのしい祭りのフィナーレとしたい。
本紙2683号(2025年4月27日付)掲載
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- 村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」127 -日本産業革命の地・横須賀造船所― 2025.05.27 火曜日