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帝国が崩れる時

 最高級シャンパン、クリスタル。ロシア皇帝アレクサンドル2世の為に特別に造られたお酒です。私も滅多に味わう事が無かったのですが……。

 口に含んだ瞬間にパッと花が開く。女性のような可憐で繊細さと、凛とした芯のある力強さも兼ね備えている。フルーティーな香りが鼻を抜け、確かに今まで飲んだ事のないような味わい。独特の気品があり、思わず余韻に浸っていたくなる本当に美味しいシャンパーニュ。

 その味を初めて知ったのは七丁目のクラブに勤めていた時でした。優しさの塊のような印象のお客様に教えて頂いた味です。ふんわりとした柔らかな雰囲気で何のお仕事をなさっているのか気になりました。普段名刺は渡されないそうですが、特別に頂いて、気になるご職業を見てびっくり。今まで銀座で出逢った事のないご職業だったからです。それは、特別養護老人ホームと認可保育所の経営。社会福祉法人の理事長さまでいらっしゃいました。確かにお話上手で、普段から老若男女に関わるお仕事ゆえに、人に関わる事がお好きなようです。しかし、何度かお目にかかりお見送りをするとき、ふと違和感を覚えました。

 ――毎度毎度のクリスタル。――決まった運転手つきのハイヤーでの送迎。
恐らくお客様の職業を知らなければ疑問に思わなかったでしょう。個人経営者ならば……。

 2024年5月、約10億円の横領でお客様がメディアに大きく取り上げられた事で胸のつっかえが取れた気がしました。逮捕されたお客様の先代から、法人経営をされていたとの事。なるほど、だからその牙城が長年……、今まで崩れなかった。二十年以上に渡って、私的な旅行に豪遊、高級品を買い漁り、女性へチップ。あの柔和なお顔立ちからは、まるで想像できなかった。でも名刺って、その名の通り色んな事実を伝えてくれるもの。お名刺とお客様の飲み方は、明らかに合っていなかった。

 見るからに判る不正でも指摘できない組織風土って怖いですよね。大人になってからでは、なかなか善悪を指摘してくれる存在も少ないのかもしれない。問題は小さなうちに摘み取っておかなければ、膨らんでしまうし、それが帝国の中でまかり通ってしまう。そう思うと、改めて自らの行動や道徳観を見直さずにはいられません。

 もともと、悪い印象は受けなかったし一緒に色んなお話もさせて頂いた。お客様が心を入れ替え、罪を償われる事を心から願っています。





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