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「バーニャカウダ大国、日本」

 先日イタリアから受けたインタビューの中に、こんな項目があった。「日本で最も普及しているピエモンテ料理は何ですか?」と。

 ピエモンテ州は、西をフランスに隣接するイタリア北西部に位置し、かつてフィギュアスケートの荒川静香さんが金メダルを獲得したトリノの街がある場所だ。海には面しておらず、アルプスの山々に守られた美食の地だ。

食べ物でよく知られているのは、何と言っても世界一と言われるアルバ産の白トリュフだ。また、グリッシーニやパネットーネ、そして名産ヘーゼルナッツを加えたチョコレートのジャンドゥーイヤなど数多い。

料理となると、皆さんおわかりだろうか?これはピエモンテ人からするとかなり意外だと思うが、その名は「バーニャカウダ」である。
美食の地ピエモンテ人からすると、もっとパスタとかリゾットとか選んでくれよ、と声が聞こえてきそうだ。

ワインの講演などで北海道から九州まで各地をまわっていると、日本の国民食か!?と思ってしまうほど日本中どこに行ってもバーニャカウダは存在するし、しかも一年中あるのだ。ピエモンテ人が日本各地をまわったら、恐らく目を白黒とさせるだろう。イタリアでもピエモンテでしか食べないのに。

さらに店によってはメニューに「バーニャカウダー」と伸ばして書いている店もあるが思わず笑ってしまう。これは大間違い。伸ばして読まないのだ。

陶製の小さな容器の下から固形燃料を炊いて、そこにオリーブオイルとにんにく、アンチョビーを入れて火にかけていく。バターを入れても美味しい。アンチョビーが溶けてソースらしくなったら、野菜を浸けて食べていく。実はこれお百姓さんの食文化から産まれた、どちらかと言えば冬の料理なのだ。

春から秋まで忙しかった農家の、一家が皆で集まった時の団らんでもある。日本だと前菜やおつまみ感覚だろうが、彼らにとってはバーニャカウダをメインとしたイベントとなる。日本人が鍋を囲むかのような雰囲気となる。だから冬の野菜で食べるのが本来のスタイルだ。

イタリアではブルジョワの場合、そのアンチョビーのソースにトリュフを削ったりもする。そしてトリュフの入れる入れないに拘わらず、仕上げに生卵を落とし、残ったアンチョビーを目玉焼きに封じ込めるのだ。トリュフがもし入っているとしても、トリュフは玉子と相性抜群なので、さらに美味となる。
ミディアムボディくらいの赤ワインで合わせる。

本紙2017年10月7日付(2414号)掲載





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