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「イタリアのパンの話 その1」

 日本では米が主食と言われるように、イタリアでは他の欧米諸国と同じくパンが主食だ。それにもまして日本の場合、米を食べるのか、また、パンにするのかを選べるという幸せな選択肢の中で暮らしている。だから幼少の頃から米とパンの両方に馴染みがある。

今でも鮮明な記憶だが、初めてイタリアに渡った20代前半の事。ローマからフィレンツェに向かおうという際のこと。ローマのテルミニ駅構内でフィレンツェ行きのプラットホームを探していると小さな人だかりが。目をやると飛ぶように売れている。初めてのイタリア、ということもあって好奇心に任せ買ってみた。大きめな丸い扁平のパン1つと、ハーフサイズのミネラルウォーター、そして林檎が1つ丸ごと、それらまとめて袋に入っていた。

これがいわゆる当時のスタンダードな「イタリア駅弁」というヤツである。その頃の日本はというと、今程の勢いではないが既にコンビニが存在し、世の中に食べ物の種類が溢れ始めていた時代であったので、そのシンプル過ぎるイタリア駅弁に戸惑ったが、何事も経験だと思い購入。満席の電車内で座れるスペースも無く、乗った電車も動き出したので立ったまま食べる事にした。早速パンを取り出す。成人男子の手のひらを広げた位の大きめな直径で扁平型、よく見ると切れ込みが入っており、そこを開けてみると申し訳無さそうに薄っぺらなハムとレタスが1枚ずつ挟まっていた。つまりパニーノ(単数はパニーノ、複数はパニーニ)だったのだ。今でこそイタリア中パニーノと言えば中の具材のボリューム感がアップしていて見た目も美味しそうに見せているが、当時は慎ましやかと言うかこんなものである。早速そのパニーノにかぶりつくが、肝心の話はここからだ。簡単に噛みきれないのだ。かぶりついた歯を食いしばったままパニーノを両手で引きちぎるように引っ張る。その一口ぶんでさえ噛みこなすのに力が必要で、唾液が追い付かず思わずミネラルウォーターを流し込む。そんな事を繰り返してハーフサイズのミネラルウォーターでは事足りず、パニーノ1つに悪戦苦闘する事2時間、ちょうど食べ終わったらフィレンツェに着いたのだ。パン1つ食べるのに2時間も必要なのかと!?

炊いたお米を食べる日本人には軟らかいパンがマーケティングされているが、イタリアのパンは元々保存性を高めるため、日持ちするように硬く焼いていたのだ。

ところが最近ではイタリアのパンも随分軟らかくなってしまった。僕が思うにはマクドナルドのイタリア進出がきっかけではないかと考えている。僕が初めてイタリアに渡ったこの時代、1990年、イタリアには3軒のマクドナルドしか無かったが、2010年度の調べでは392軒に増えている。ハンバーガーに慣れると、硬いパンを食べなくなる!?これも現代の流れなのだろうか!?

本紙2017年8月7日付(2408号)掲載





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