現在位置: HOME > コラム > 村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」 > 記事



村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」106 -日本産業革命の地・横須賀造船所―

 不毛の攘夷運動 (つづき) 

 平成27年7月に世界遺産に登録された『明治日本の産業革命遺産』パンフレットでは「国禁を犯し、命を賭してロンドンへ渡った…」と彼ら「長州ファイブ」の悲壮な状況を強調して紹介している。半年前の犯行についてなにも触れていないから、ほとんどの国民はそのまま信じてしまうだろう。でも、「国禁」以前の基本として人としてやってはいけない殺人を軽率に企図して念入りに犯した二人が、「命を賭してロンドンへ渡った」と独りよがりの文章で紹介されても、殺人を犯したテロリストも自分の命は惜しいのかと鼻白む。教科書や副読本で「長州ファイブ」などと持ち上げる人物・行いではない。
まして1863文久三年といえば長州藩が攘夷論を振りかざして倒幕運動を展開しているさなかなのに、その裏では半年前に完成間近の英国公使館建物に放火、あるいは殺人を犯した若者3名を含む5名を、そしらぬ顔で英公使に頼み込んで英国船に乗せ、イギリスへ「国禁を犯して密出国で留学」させていたとは…。長州の「攘夷=鎖国」の主張は幕府を倒すため人々を騙す偽りの看板だったと、戦後の今になってはっきりしてくる。

 現在の歴史教科書副読本『日本史図録』(山川出版社)で明治以後の近代化の例を見ると明治5年に操業開始の「富岡製糸場」からで、横須賀造船所は載っていない。では明治以前はどうかと見ると、「長崎海軍伝習所」「咸臨丸」の絵と「長州ファイブ」を目立たせようと彼らの写真を載せておしまい。「日本産業革命の地・横須賀造船所」はみごとにすっぽかされている。

 これはなぜか。明治政府は「日本が近代化したのは明治以後=明治以前は遅れた幕府政治」と教えてきたから、「幕末の壮大な近代化・横須賀造船所」は表に出したくない。まして関連して登場する小栗上野介の名は無実の罪で殺害してしまった明治政府のトラウマだから、両方とも無視抹殺してきた教科書に沿って作られた副読本、という構図が見えてくる。

本紙2620号(2023年7月27日付)掲載





バックナンバー

購読のご案内

取材依頼・プレスリリース

注目のニュース
最新の産業ニュース
写真ニュース

最新の写真30件を表示する