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阪村氏のねじと人生

パーツフォーマー

 パーツフォーマーは、基本的には、ナットフォーマーの太径で短寸、穴のあいたパーツと、ボルトフォーマーの長い軸物パーツが鍛造可能なフォーマーである。そのため、阪村機械では、開発当時「NBP」型フォーマーと呼称していた。

 長尺パーツは、頭をアプセットするだけでなく、スプラインシャフトの様に全長に絞り加工が施される製品が多い。そのため工程能力曲線と仕事量を比べておかなくてはならない。

 また反面、特に短いパーツを鍛造する時は、切断機構(ストッパーの構造)が大切である。移送にはトランスファーのサポートシステムがダイブロックの下部駆動のみか、パーツによりPKOで行えないか、トランスファーチャックに設けられないか―等々と、パーツの形状と目的によって調べておく。

 クーラントオイルも大切である。環境問題から塩素、硫黄、燐、鉛が添加剤として用いられないため、ドライフォージングも考えなくてはならない。

 阪村機械がパーツフォーマーを開発し、いちばんお客に喜ばれたオプションは圧造荷重がデジタルで表示されるモニターである。ナット、ボルトの場合は永年の圧造経験で荷重はつかんでいるが、パーツの場合は各工程の負荷が全くわからない。それがデジタルで表示されるのである。画期的な発明とされ、約1千台売れた。

 打痕傷を防止するSPコンベア、ユニバーサルチャック、厚み、長さのデジタル表示、共にサカムラパーツホーマーの黄金時代を招いた。平成3年8月の経済雑誌に、都道府県別企業成長率ベストテンが掲載されたが、そこには京都府で唯一、四桁の成長率を達成し、トップランクされた阪村機械製作所の名前があった。

 しかし、その後の日本経済は先の見えない長期不況へと入っていった。幸い、主力客先の自動車産業が好調なため、より高精度なパーツフォーマーの開発に努力し、熱間フォーマーも100ミリ径のブランクが鍛造できるHBP160型を開発して、中国各地をはじめハンガリー、ブラジル、イタリーまで販売した。しかし、阪村芳一は癌で入院を宣告されたため、拡大した阪村機械を収縮する方法として、各役員は各担当部門の社長に昇格し、直接経営を担当してもらう方法をとった。分社化は昭和40年頃より阪村産業、阪村精圧など独立を図ってきているため初年度から黒字を計上した。

 阪村機械の株主である投資育成会社より「求心力がなくなる」と忠告されたが名門の機械メーカーで上場企業でもある新潟鉄工、池貝、日立精機でも倒産している。それは「指示待ち型」の組織を放置しておいたからである。

 経営とはそんなに難しい事ではない。利益額の範囲内でやれば絶対に赤字は出ない。赤字が出るのは、もともと「何とかなる」、「誰かがやるだろう、と分からない仕事をする」からである。

 「分からない仕事」各グループで開発できない課題は「ブランドロイヤリティ」の資金限度枠内で、会長決済により開発を行っている。グループの全体会議は貴重な時間が失われるので、Eメールでの情報提供にしている。大切な情報があれば自分で調べればよい。自分の部門の仕事なら会議をしなくても、日常会話で分かる筈である。分かると対策が即たてられる。

 赤字で困っていた阪村精圧も、分社すると電力代が5分の1に低下する深夜に沢山電力を消費する熱間鍛造の仕事を行い、昼は不良品選別を行って、分社後は1億円近い利益を出している。自動車部品は不良ゼロの信用が大切である。今では無借金経営の超優良企業になっている。

 次に、最近大切なのに仕事のスピードがある。阪村精圧は「仕打ちの仕事」は金型を込めて何でも30万円で統一している。そのため営業マンがいない。立ち上がりのスピードと撤退のスピードすべて早い。これ等も10名前後の小規模だからできる。パーツフォーマーは生産スピードは速いが、段替えに時間がかかる。慣れれば30分で出来る仕事を3時間もかけてやっている。

 各パーツの段替えがスムーズに行えるフォーマーナビゲーターを開発したい。見えない鍛造荷重をサカムラは各工程で見えるようにした。次は、いくら収益が上がったか、毎日決算を表示するパーツフォーマーを考えたい。そのためには、すべてが見て分かるデジタル化をフォーマーに施すことである。

 難しい事だが、新人の教育を繰り返し、繰り返し行うよりも、良い機械を開発する方が効果があると思う。

本紙2004年10月27日付(1948号)掲載。


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