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村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」13-遣米使節が見たもの―

日本に造船所を造るための見学 


 遣米使節一行が積極的な意識をもってアメリカの造船所を見学していたことは、勘定組頭森田清行の記録によってわかる。たとえば、帰国の米国軍艦ナイアガラ号に乗るためにニューヨークへ回るなら、我々はニューヨークのサンデフック造船所に滞留し見学したい、とアメリカ側に申し入れている。

① わが国の第一の急務は海軍を開くことだから、海軍の創設に役立つよう、造船所の施設や工場機械の機構、操作をゆっくり見学したい。


② 長いこと船旅をしてきて身体がなまっているから、雑踏の街中でなく清閑の地をゆっくり歩いたりして身体をならしたい。(「遣米使節史料集成第一巻」付録「亜行船中并彼地一件」)
さらに、造船所に大勢を受け入れる宿泊施設がなければ、ナイアガラ号でも河船でもいいから滞留して、毎日造船所を見学したい、とつけ足してその熱意を伝えている。


 遣米使節の目的に造船・海軍創設の将来図のための見学が加わったことになる。日本出発当初からの目的であったというより、とりあえず第一目的の日米修好通商条約の批准書交換がすみ、第二目的の金銀貨の比較についてもこれからフィラデルフィアの造幣局へ行って分析実験を主張できそうなめどがついてきた。


 そこで先日見学したワシントン海軍造船所のような施設を、ニューヨークでもっとゆっくり詳しく見学してゆこうと強く提案する者がいて、第三の目的が生まれた展開と思われる。帰国後の日本は攘夷の風潮が強くうかつに米国での見聞など語れない状況にあった。その中でひるまず造船所建設を説き続けた言動・主張から考えると、小栗忠順がその主たる提案者と推測できる。

本紙2344号(2015年10月27日付)掲載





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