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村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」27-日本初の株式会社―

   小布施の”船会社” (4)―国民利福のため―

 小栗の兵庫商社も、鴻山の船会社も、〈国民利福〉を目標にしていることが注目される提案書で両人はこの理念で共鳴している。近年、大小いくつもの会社が製品や営業行為の虚偽から不祥事を起こして信用を失墜し、身売りあるいは廃業に至った会社もある。共通するのは会社の大小は関係なく〈国民利福〉を忘れ国民を「会社」や「社長利福」にすり替えて利福を追求する姿勢が、結果として組織を腐らせ、経営を危うくしている。鴻山は続けて書く。

 産物を輸出品にすると、これまで通りの生産では品薄になって物価騰貴を招くから、その手当をすることも必要となります。産物としてたとえば、越後の赤倉でこの十数年ジャガイモを作っていますが、土地に合っていて、近ごろは粉にしたり麺状にしたりして、菓子や蒲鉾のかてになるということで、僅かな土地で千金以上の産業となっています。ほかに信州の養蚕も、この五十年くらいで幾万金の産物になっています

 として、次に勘定奉行小栗忠順との内々の協議を経ていることを匂わせる。
愚意の趣一応上州(小栗上野介)へ拝謁、篤(とく)と申上候て取掛り申度(もうしたき)ものに御座候   卯八月(慶應三年1867)
(高井鴻山「上申書」小布施町教育委員会蔵・意訳) 

 鴻山にとって長年苦慮してきた、国の行く末にどう対処したら国民利福の道が開かれるかという課題に、小栗忠順の株式会社の構想が伝えられ、幕府の蒸気船も貸してもらえ、米人商人ウェンリイ(ヴァン・リード)を商船の操作と売買の指南役に雇い、信越地域の物産として盛んになってきたジャガイモや養蚕(繭)を商品とする具体的な国民利福の話となって、ようやく光が見えた思いであったろう。心が躍るような筆致が感じられる。

本紙2383号(2016年12月27日付)掲載





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