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村上泰賢氏の「わが国産業革命のはじまり」9-咸臨丸神話が隠した遣米使節―

「勝海舟神話」の成り立ち


 大正7年に国定第3期修身教科書にいきなり「勉学」勝海舟、「勇気」咸臨丸という課が登場する。この二点セットを国定の修身教科書に登場させて、全体として「勝海舟が特別努力して勉学にはげみ、その結果咸臨丸を率いて日本人だけで初の太平洋横断を成し遂げた(傍線部は虚構)」という英雄談に仕立て上げていることがわかる。
 その大正7年からの修身教科書「勉学」勝海舟のあらすじは、次のようなもの。
 「欲しかった西洋の兵書8冊50両で店にあったが、高価なので親戚を回って金を借り店に行くと、もう買われていた。買った人を訪ねたが、譲ってくれない。本を貸してもくれない。頼み込んで夜その人の家へ行き寝ている間に筆写させてもらうことで話が決まり、雨の日も風の日も通って半年で写した。写し終わって持ち主に『ここがわからない』と質問すると『自分もわからない。あなたには感心したから』と本を勝海舟にくれたので2冊になった」という話(以上をA型とする)で、私も若いころに読んで感激した。
 ところが昭和16年に第5期改定された同じ話(B型)と比べると、肝心なところが何箇所も(上の傍線部)変わっているから感激がすっ飛んで、本当はどちらなのか、もともと何を根拠に出来上った話か?という疑問がわいてくる。

A型とB型を比較してみよう。

〈A型・大正7年~〉が変化→〈B型・昭和16年~〉
1、「兵書」8冊  が →「辞書」1冊 に
2、50両    が→ 60両 
3、親類から借金 が→ 親類に借金を断られた
4、通って写した が→ 借りてきて写した(雨の日も風の日も通って…ない)
5、半年で写した が→ 1年以上かかった
6、もらって2冊に が→ 2冊写して1冊売った 

本紙2332号(2015年6月27日付)掲載





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